アカシャの空

                 アカシャの空

               ~奥谷博の絵に寄せて~


             okutani.jpg





 果て無き豊饒
 果て無き不毛
 
 微風に揺れる花園を 
 歩き疲れた
 アカシャの旅人はいつも
 この冥い空を見上げる

 死が周りにはびこり
 憩うところもない
 赤いガレキの谷間を
 ただほのかな光に誘われて
 僕らは旅していた
 地表に積み上げられた
 見捨てられ腐りゆく
 収穫の魚たちから肉を切り取り
 分け合って飲み込んだ

 白い蛾が飛び交う
 泥に覆われた沼地で
 餓鬼達は腰を半ばまで
 泥に埋め 顔を覆い
 天を仰ぎ 嘆いている
 救いは決してこない


 僕らが目指して歩いているのは
 ほのかな光を放つ
 あの天空高く伸びる
 貝塚
 塚は金星の光を浴びて
 毎日少しづつ天へ伸びていく
 アカシャに住む生き物の骨を
 肉として
 
 僕らは岬に出た
 眼下の海面では
 恐ろしく巨大な渦が
 回転していた
 水は清らかだ
 命を育みつつ
 決して命にはならない
 清らかに命をふたたび呑み込む
 光る貝塚はまだ遥か彼方に
 そびえている

 『100年待てば アカシャの空からも
  慈悲の涙が流れようや』

 君の耳を噛みながら語る寝物語は・・・・

 『共に骨となりましょう。
 生き変わり 死に変わり
 いつかあの明星に届くまで』

 君の目に燃える欲望は・・・

 なんと美しい世界だろう 
 ここには何もない
 なんと気高い
 奴隷たちだろう
 あてもなく歩くその姿は

 今日も暮れゆく
 アカシャの空が誘う痛み

 燐光に燃える蝶
 跳ね上がる海老
 月の花園

 果てなき豊穣
 果てなき不毛

 僕の両手




                                     2000年頃                   




スポンサーサイト
詩集1(Birth) | コメント(2) | トラックバック(0) | 2012/10/28 22:43

BIRTH

 
                       BIRTH 

 エピローグにはまだ早いよ
 果てしない虚空の片隅に
 深いコバルトのAtomic-Eggが浮かぶ
 
 秋の落ち葉に降る雨みたいに
 誰かが囁いている・・・

 結局すべてはなんだったんだろうね?

 待ち合わせたあの場所にあいつは来たかい?

 静寂すら答えない
 ひそやかな声たちは
 自らが遠い過去からの木霊に過ぎないことを思い出し
 虚空に溶け去ってしまう

 長い 長い 永劫の沈黙
 
 そして 今
 原子卵に赤々とした亀裂が走り 

 生まれ出るのは
 真夏の夜の夢の続き?

 果たされなかったいくつもの約束を
 贖う女神たちだろうか?

 いや、それは時間を貫く
 鳶色の眼球と
 まばゆいゴールドの表皮を備えた
 ティラノザウルス・レックス

 銀河のはずれの遠い惑星の記憶を
 DNAに刻み

 あらゆる巨大な栄光や戦争と同じく
 あらゆるちっぽけなものの悦びと痛みの歌を
 そのとがった耳の奥に秘めて

 今永劫に向かって
 低いうなり声を上げ始める

1997
 

imagesCAYZJBNM.jpg





                            
詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/09/23 17:00

~彼方~  beyond the beyond

          ~彼方~



 灼熱の大地
 猛毒の大気
 命なき不毛の惑星で 
 金色の光たちは笑う

 土星の沈黙が
 僕の背後を脅かす

 『恐怖は美のはじまり』

 さあ、シバの踊りを前にして
 共にこの杯を干そう
 舞いの刃が僕の首をはねても
 決して喜悦を忘れるな

 そう、これも余興のひとつ
 その証拠に音楽は終わらない

 太陽からの歌声を
 カーステレオで聴きながら
 世界の果てへ旅をしよう
 世界の果ては 時の果て

 過ぎ去った文明の遺跡に座り
 カルピスウォーターを飲みながら
 Milky wayを泳ごう
 冷たく燃える無数の星々
 みんな水生生物の卵みたいな
 
 冷たく燃えてなんかはない
 あれは純粋な形の
 命なんだ
 

 限りなき存在の明滅を
 繰り返し
 時のまにまに
 漂う

 遠くに祭典のパレードが聴こえる
 白亜の駅で汽車を待つ
 汽車を待ちながら
 僕は両手で顔を覆い
 時の始まりを思い出す

 記憶の
 意識の
 舞踏の

 はじまり

 不毛の惑星
 猛毒の大気と
 硫酸の雨の中
 金色の光たちは笑う

 みんなわかっているのか?

 あれは愛なんだ

 命は宇宙に満ち渡り
 あらゆる場所が
 時の果て



2000年



imagesCA9CMEHO.jpg
詩集1(Birth) | コメント(2) | トラックバック(0) | 2011/09/23 15:00

ちっぽけな日々


 ちっぽけな部屋の電気を消し
 今日もベッドにもぐるよ
 ちっぽけな一日がまた
 終わろうとしている

 ちっぽけな僕と
 ちっぽけな君とは
 いつもちっぽけな事で
 喧嘩ばかりしている

 ちっぽけな僕は
 でかい世界に憧れる
 でもデカン高原やサハラ砂漠の夕陽に
 僕のちっぽけな心は
 似合わない

 ちっぽけな哲学
 でっちあげりゃいいのさ
 それがどんなに
 時代に馬鹿にされても


 ある日夢を見た
 ちっぽけな君が
 突然女神になって
 やるせなく抱えていた問いに
 すべて答えてくれる夢さ

 何も変わらないよ
 何も終わらないよ
 何も始まらないよ

 僕は僕でいる

                          
                                       ’96年ごろ   


詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/08/16 17:10

不思議なおとぎ話

                     不思議なおとぎ話



 その日の真夜中
 眠りに落ちた僕の耳元で誰かが
 『死』と囁いた
 そこで僕は一晩中眠りながら
 そのことについて考える破目になった

 それは不思議なものだった

 僕はいまいる
 そしていつかいなくなる
 それを人は嘆く
 しかしいなくなることは
 苦痛ではなく 不思議なだけだ

 他の誰でもなく
 この僕がいなくなるとはどいうことか?

 どこかの鳩舎で鳩が街に降りしきる
 春の雨を見ているに違いない

 こんな朝に誰かがいて誰かがいない
 でも鳩は誰かがいなくなった同じ景色を
 見続けている

 「死」というもの 呼ばれるもの

 それは始まりも終わりもない塔で生まれた
 住人同士が暗い踊り場で囁きあう
 不思議なおとぎ話だ
                              1999



thumb5.jpg
詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/02/27 22:31

熱帯魚

                   
                   熱帯魚


 水槽のガラスは外部の映像や音を歪ませる
 熱帯魚はゆっくりと泡を吐いていた
 ガラスの向こうでは黄砂に覆われた空に近い部屋で 夕陽を浴びながら家族が穀物や肉を咀嚼している
 新聞には魔術めいた象形文字で遠い大陸で火山が噴火したと報じられている
 大人たちはそれをすぐに記号的情報に変換する
 子供たちは神話的な山から赤い流れが 神話的な街の大通りに荒れ狂うのを見る
 こぼれたミルクが印刷されたばかりの活字を滲ませる

 熱帯魚はどこも見てはいなかった
 ただ彼の世界の底でゆっくりと 確実に泡を吐き続けている

 話し声、時折の怒声、波の音
 ブラウン管には青く豊かにうねる大洋が映っている
 熱帯魚は何も聞かない 郷愁も感じない
 
 直方体に切り取られた大洋を蛍光灯は白々と照らし
 熱帯魚はただ静かに息づいている

 やがて明かりが消えた
 しばらくすると水槽のあるキッチンに
 泣きじゃくる赤ん坊を抱いた母親が入ってくる
 母親は電気もつけず 淡い光の中を踊るように
 子供をあやし始める
 子供がようやく泣き止むと 彼女は冷蔵庫からアルミ缶に入った飲み物を取り出し
 乾いた唇を湿らせた
 赤ん坊は眠ったわけではなかった
 彼の瞳に冷蔵庫の明かりが映し出されていた
 彼はその光の世界を不思議そうにいつまでも見つめている
 彼は草の匂いの濃い初夏の夜にはじっとしていられない大人になる
 何かとてつもなく美しいものが 自分のすぐ近くに隠れているように思うからだ
 夜半過ぎに足音をしのばせ 家中の引き出しの中身を確かめるようになるだろう

 しかし今、彼は眠気にあっさりと身を委ねて
 母の胸に頬を寄せる

 遠くで打ち上げられた花火が母親の白い顔にかすかに映えた

 熱帯魚はゆっくりと泡を吐いていた

 そして

 世界は理由もなく突然終わる

 わたしたちが 毎日無数の宇宙を破壊しているとするならば 私たちの宇宙が一秒後に破壊されることに
 誰も抗議は出来ない

 しかし熱帯魚はいた
 何も起こらなかったかのように
 暗闇の 無の底辺で黙って泡を吐いていた
 彼はカタストロフィーのわけも知らず
 世界が終わったことも知らない
 彼はただ同じように息づき 泡を吐いていた

 だからこうも言える
 この魚が宇宙全体を夢みていたのかもしれない、と

 何も見ず
 何も聞かず
 何も愛さず また理解もしないものが
 すべての豊かさの源になれればの話であるが

 熱帯魚は宇宙が再び始まるのを
 待っては、いない
 そこに息づき鈍重なまでの規則正しさで
 泡を吐き続けるだけだ

 そして奇妙なことに
 準備は、出来ていた
 母を 父を 子供を
 遠い大陸から運ばれてきた黄砂の下の
 不思議な日々の営みを
 ガラスの檻を
 受け入れる準備は出来ていた

 熱帯魚はやがておもむろに浮上する
 季節と星は巡り始め
 人は生と死を再開する
 水面はまったく新しい太陽で輝いている

 世界はいつも理由なく
 一秒前に始まるのだ


                              1999・7・14
                              


                  


詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/02/25 13:03

フルーツクロックの時

            
                 フルーツ・クロックの時


 もう覚えていない遠い昔
 フルーツクロックが時を刻んでいた頃
 いくつもの雪の降る午後と 緑の夏を越えて
 僕は大人になった
 戸棚の影で眠る酒 
 夜中に目が覚めたときにだけその意味を明かす
 不思議な絵
 その中で運命が僕に呼びかけた
 すべてのものの重厚な匂いの中で
 僕はペンを手に何通も手紙を書いた
 イルカの夜と アシカの夜明けに抱かれて
 水がしたたりおちる レンガのトンネルを抜けると
 そこには風に光る野があらわれ
 オルガンの音と 賛美歌が流れていた
 帰ってきたとき
 家は静か
 壁で微笑むなつかしい死者たちの写真
 通りにはただ太陽と家々の影
 それはフルーツクロックが回す時だった
 時計はまだフルーツから出来ていて
 祭りの日には母親がナイフを入れ
 皿に取り分けて
 みんなでゆっくり食べた

 フルーツクロックの時がいつ終わったのか
 僕は覚えてはいない

 ブランコの上の雪が溶ける頃
 僕は遠い街へと旅立った 
 それから大きな戦争と 活版機の大躍進があった 
 

 いつのまにか終わったフルーツクロックの時を
 今でも僕はなつかしく覚えている
 そして思うのだ
 いくつもの雪の降る午後と 緑の夏を越えて
 僕は大人になりたかった、と

 

                                   1998

詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/02/21 18:51

太陽風の岸辺で

                 
               太陽風の岸辺で





 熱核兵器のぬくもりがいまだ残る鉄壁の影を過ぎ
 干上がった海辺にたどり着く
 海と僕たちの間を隔てる金網に
 風が吹きぬける
 誰も僕らが行くべき場所を告げなくなっても
 体内の力は僕たちを駆り立て
 いくつかの謎を解くために
 目的地のない旅へと導いた
 ソーラーシステムは機能し続け
 僕らは陽炎の道をゆく
 惑星たちを運行させるのと同じ力が
 僕らを前に進ませる

 金網に実る 塩の結晶
 僕らは頬を寄せ合いそれを覗き込み
 色彩の乱舞に我を忘れた

 塩は結晶になることを望みはしない
 海中はとても安らかで
 一方太陽と風は痛すぎる
 宇宙の諸力にさらされ
 固まり 輝くのは 厳しい
 例え七色を手に入れるためでも

 しおれかけた観葉植物が歓迎する無人のホテルで
 焚き火を囲みながら
 互いに謎を掛け合い 壁に映る僕らの巨大な影に身震いする
 僕らはいったい何ものなんだ?
 はしゃぎ声が大きな夜に反響する

 そんないくつもの夜々の果て
 干上がった海辺にたどり着く
 金網に手をかけ 顔に熱風を受けながら僕たちは待つ
 僕らが純粋な命になるのを

 塩は僕らのこころの虚空で宝石のようにきらめき

 太陽風は地球と言う岸辺を侵食し続けていた
                           



                                   2000年


sunship.jpg




詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/02/17 14:26

Across the universe

            
 Across the universe



寝転んで
 見知らぬ窓辺を見上げた時
 雲は流れ続けていた

 ここは昔僕の部屋だった
 でももう僕が愛した本も音楽も
 ここにはなく
 いくらかほこりっぽい物置になっている
 机の上には地球儀だけが
 ぽつんと残って日を浴びている

 見知らぬ窓辺に雲は流れる

 あれから僕は一人で
 知らない国を周ったのだ
 孤独なブルーベリーガムの味のように
 鼓膜の奥に鳴り響く
 Across the universeを聴きながら

 それは青い宇宙のキッチンに転がる
 ガラス玉のリズム
 そのリズムが促すまま
 僕は歩き続けた
 キッチンには誰もない
 皿の上の渦状銀河は冷めてゆく

 Jai Guru Deva om・・・・

 優しくなんかはなりたくなかったが
 あの時見た雲の流れは速すぎて
 乗り込むことは出来なかった
 僕はターミナルのベンチに座り
 チケットを買うことも忘れていた
 この異国の雲の流れに我を失い

 そういうふうに
 僕が過ごしてきた部屋は異郷となり
 生きることは帰らないことだと知った
 そして
 青空の中へ漂い出て行った

 孤独なブルーベリーガムの味のように
 鼓膜の宇宙に鳴り響く
 Across the universeを聴きながら

 ひとりきりの旅は淋しいもんだけど
 僕を導くこのリズムに乗って
 こころの命じるままに
 どこかへ流れていこう

 異郷となったあの部屋で 
 地球儀がゆっくりと周り始める

 Jai Guru Deva om(おお、神に勝利あれ)



                                      1998


   




詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/02/01 22:44

君に似た惑星


        
                君に似た惑星



君が瞬きするたびに
 君に似た惑星が生まれる
 君に似た海と
 君に似た大地
 君に似た風と
 君に似た
 いのちを宿した惑星が
 真っ青な空と
 そこに浮かぶひとひらの雲までもが
 君の面影を宿す

 君に似た惑星はいつまでも
 脅かされない星系のなかで
 たゆたいながら
 君のような歴史をつむぎ続けるだろう
 争っているにしても
 愛し合ってるにしても

 だから
 瞳を鏡に映して
 そこに宿る輝きの意味を考えてみるといい
 宇宙飛行士よ

 君が創造せし
 宇宙を
 果てなく巡り旅するものよ

                                    1997

                       
詩集1(Birth) | コメント(1) | トラックバック(0) | 2011/01/28 21:16

Silent dawn

                Silent dawn




 足音が届かない夜明け
 僕はあやまろう
 優しい椅子と 机の影に
 捕まえたドードー鳥は逃がしてやって
 空のカゴを見つめよう
 足音が届かない夜明け
 僕は記憶を愛撫しよう

 (雨の中を去っていく後姿 無人の街 無人の車)
 
 足音が届かない夜明け
 僕は巻貝のらせんの迷路に入り
 波の音を探しにゆこう
 僕の部屋のドアが開く
 ゆっくりと
 そこには誰もいない
 ただ夜明けの青が部屋をいっぱいにする

 (ポストの中に濡れた手紙)

                          
      1997




詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/01/25 22:14

A song of another world


A song of another world



『大きな岩 ひとりでに10メートルも歩く』
  そんな見出しが躍る古い外国の新聞を
  僕は図書館で読んだ

  岩がひとりでに歩いたと言う
  アリゾナか サハラか ゴビか
  きっとそんなどこか
  ここからは遠い世界の砂漠で
  
  仲間に止められただろう
  岩は歩いたりするもんじゃないと
  岩の長老は彼を叱ったかもしれない
  
  
  でも彼は歩いた
  特に歩きたかった訳じゃない
  歩くのはとても苦しかった 
  岩は歩いたりするもんじゃないから
  でも
  歩かずにはいられなかった

  何かが彼を駆り立てていた
  歩け 
  歩け
  力の限りこの砂漠を進めと
  ただ湧いてくる力だけが
  今まで感じたことのない
  痛みと喜びが
 ひとつの歌のように彼を導いた
 それは聴いたこともないほど美しく 
 どこか悲しげなメロディーだった

  あいつは呪われている
  ある岩ががそう言った
  違うあいつは祝福されているんだ
  別の岩が言った
  気がクルットルナ
  とサボテンが見下ろしていた

 

  ただただ必死に
  歩かずにはいられなかった彼には
  そんな声はどうでもいいことだった
  彼はただただあの歌声に耳を傾け従っていた


  しかし砂漠はあまりにも広かった
  
  ある日珍しく大雨が降った
  彼は雨の中歩みを止めてじっとしていた
  そしてもう二度と
  歩き出すことはなかった
  きっと雨の激しさと冷たさに我を忘れ
  なにもかも忘れてしまったのかもしれない
  

  彼にはもう思い出せなかった
  歩き方も
  歩いた事も
  彼を駆り立てた力も
  あのもうひとつの歌の事も

  彼の歩いた後には短い溝が残り
  それもやがては風に消された

  『大きな岩 ひとりでに10メートルも歩く』
  そんな見出しが躍る古い外国の新聞を
  僕は図書館で読んだ

  そして悲しくもまた不思議な気持ちになった

  世界は大事なことを隠している


1997


  
詩集1(Birth) | コメント(2) | トラックバック(0) | 2011/01/25 11:09

Universal view

空間は沈黙を守っている
 頑固に
 それが唯一の教えでもあるかのように

 僕のこころは病んだ呼吸器に縛り付けられ
 現在位置を忘れそうになる

 現在位置=宇宙
 
 宇宙的観点を思い出せ
 真空を飛び交う情報は想像を絶することを伝えている

 宇宙は海だ
 宇宙は考えている
 僕に似た誰かも考えている
 馬の頭の星雲で

 さえぎるものは何もない空間がどこまでも

 愛は宇宙の基本公式
 死は宇宙の基本問題

 青白い生命体の泳いだ痕跡が 天井にも 空間にも

 僕は毎日宇宙を泳ぐ

 そして陸地はどこにもない

                              1996


  bato_brc.jpg


詩集1(Birth) | コメント(4) | トラックバック(0) | 2011/01/23 12:41

Childhood's end


夏が去り 鳥が啼き 影が瞬いた
 僕は落ち葉を踏んでいる
 時は10月
 祭りの後の広場に 再び帰る人はなく
 
 雨が降った

 きらめく8月の終わり
 魚の形の雲がすごい速さで流れていく
 空の下
 まだ誰もいない学校のグラウンドに立ち
 砂埃の中 目をこすりながら
 点滅する影を見ていた
 雲間から太陽が現れ
 濃くなった夏の影たちを
 地面にくっきり焼き付けると
 うれしくなった

 大きな魚が太陽を腹に呑み
 影が消えたときも
 なんだかドキドキした

 遠くの大木がざわざわ揺れて
 雨の匂いがする
 南の海から
 嵐がやってくるのかもしれない

 まぶしい7月のさなか
 深海の気配のする水族館の中で
 僕は待っていた
 蛍光灯の下のカブトガニたちが
 古代の海に帰り
 巨大なジンベイザメが
 幻の海底トンネルをくぐりぬけ
 目が痛くなるほどの光の中へ
 溶けていくことを

 夏が去り 鳥がはばたき 影が消えた
 時は10月
 僕は湿った落ち葉を踏んでいる
 多くの魚たちや 
 嵐の夜の冒険を想いながら

 みんなどこへいったんだろう?

 雨に煙る祭りの広場には
 腐った材木や 錆びた鉄骨が眠り
 僕の問いかけに答えるものは
 何もない
                      
                                  1996

















詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/01/21 21:01

水音

水音


 幾千の僕
 幾億の君
 暗闇の中を水が流れ落ちる
 そんな場所にいた
 
 謎めいた書物を紐解く前に
 今こうして共にある時間を
 確かめよう
 岩肌に足をすべらせないように
 注意して

 漆黒の闇の中を流れる
 光のかけらを散りばめた
 水流
 すくいとってみたら
 その冷たさと清らかさに
 驚くね

 幾千年も
 幾億年も流れ続けてきた
 暗闇の中の水晶

 ぽっかりと口をあけた洞穴から
 重低音の冷気が押し寄せる
 遥かな闇の中から見えない
 誘いがいつも二人の肩を叩く
 冷たく
 しかし
 悪意なく

 水がすべてを示している
 水が命を運んでいる
 このほの暗い水流が
 輝かしいすべての地上の命へと連なる
 水は高度のプログラムを秘めていた

 それは
 父であり岩石であり死だった
 母でありうねりであり悦びだった

 幾億の僕たちは知っていた
 あらゆる恐怖ののちに
 僕らは悦びを見出すことを

 ほら
 源流が僕らを呼ぶ声が
 いつまでもこだましている

 幾千の僕
 幾億の君
 きらめく暗い水が流れ落ちる岩肌

 そこにいた

                      
1996

     2387369680103830173S600x600Q85.jpg

 



詩集1(Birth) | コメント(2) | トラックバック(0) | 2011/01/19 23:17

今、長めの文章を書いており、ブログの更新は去年よりかなり減ると思います。
その間12、3年前から書き溜めた詩を散発的にUPして行こうと思います。

 一昨年くらいに小冊子にしてみようかという計画があり、その時に詩集1「Birth」と詩集2「火水の子供たち」(どちらも仮)をつくりました。詩集1は1997~2001くらい、詩集2は2004~現在位です(神様のことを勉強しだしてから以降)。
 自分にとっては、とても意味のあるイメージのひとつひとつです。
 なんとなく読んでいただければ幸いです。  

 本日は、詩集1より10代の頃書いたもの

                 スニーカーイリュージョン


  海中は青かった
 イルカたちは独自の歌の中にいた
 そのメロディを聴きつつ
 僕はゆっくり歩いていく
 毎日風が 気持ちよかった

 ファインダーから出現した砂漠は
 100年前の雨で滲んでいく

 交差点ですれ違う
 白夜の都市の雑踏よ
 僕はゆっくりと歩いていく

 どこまで行っても終わりはなく
 いつも彼方に地平線
 ただ今だけを懐かしく歩くことで

 路上が僕の故郷となる
 
 ひそやかな夜更けに僕は見た
 流星の雨が脱ぎ捨てた 僕のスニーカーに
 音もなく降り注ぐのを
 
 僕の見てきた旅路の風景は
 すべてはこの磨り減った靴の夢見た幻影

 ニュースキャスターが何か喋っているのは
 もう聴こえない とても静かな夜

 さあ、砂嵐の向こうに帰っていこう

 僕はゆっくり歩いていく
 毎日風が 心地よかった


                                 1996 


   ohkawa.jpg


 同じく、詩集1より

                  連詩 Once upon a time

          
           < 序>

 あらゆる私たちが目にしてきた光景
 砂漠に近い港の風の匂い
 夕陽に照らし出されるクレーンと工場群
 潮風のコンビナート
 貧しい屋根の下での祈りの火
 
 私たちは歩く
 冷たい風の中を 春を想いながら
 私たちは歩く
 かぐわしい春風の中を 生の短さを嘆きながら

 汗
 涙
 空腹
 飲み込まれる唾液

 歩く私たち
 歩き続けた私たち

 話せ
 あらゆる時代の私たちに
 瞬間の私のことを

 手をつなげ
 あらゆる時代の私たちと
 その苦痛と希望のゆえに

 夕陽が沈みかけている
 グラウンドの向こうに
 僕は帰る
 家族が待つ夕餉の匂いへ

 夕陽が沈みかけている
 雪を戴く山脈の向こうに
 私は帰る
 仲間たちが待つひなびた僧院へ

 夕陽が沈みかけている
 私に帰る場所はない
 私はあの夕陽を追って峠を越える

 日が沈めば今日は終わり
 それは私たちから永遠の所有となる

 そして私たちは朝が来るまで話し続けるだろう
 草原の中で焚き火を囲んで
 パイプを回し

 一晩中数珠をたぐり

 暖炉の前で芸術論を闘わせ

 うらぶれた酒場で熱い息を吐き

 あるいは一人で夢の谷間を歩いていようとも
 忘れるな

 私たちはほこりぽい昼間をともに歩いた私たちすべてと
 夜を分かち合い
 語り合っていることを

 すべての時代の私たちと・・

                                2000









 
詩集1(Birth) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2011/01/18 18:30
 | HOME |