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鬼を解くもの (小さなお話し) original story

 「おーい!待てよ!」

 まだ年若い少年の声が、山中に響き渡った。

 夏である。

 おそらくもう立秋の頃は過ぎているが、いまだ秋の気配などはどこにも感じられない。

 青々と茂る葉がギラギラ輝き、草いきれが濃く立ち込める。
 生命が燃え立つ真夏の山であった。

 しかし、それは人間にはいささか荷が重い空気だ。

 1000メートルにも満たない低山のため、下界よりは多少涼しいはずだが、リュックをしょって山道を歩き回ると滝が汗のように
 流れシャツを、下着をぐっしょりと濡らす。その貼りついた肌着のまま歩き回っていると到底涼しいなどという感覚は皆無だ。

 どうやら二人連れの少年のようであった。

 先をゆく背が高い少年の背中に、後ろをあるく中肉中背の少年が何か叫び、小走りに後を追う。

 「おーい待てってば、光輝!」 
        
  光輝と呼ばれた少年は親友の呼び声も耳に入らないかのように、もはや登山道とも呼べない獣道の奥へ奥へとどんどん
 足を踏み入れていった。

 「どうすんだよ、登山ルートからこんなに離れちまって。GPSもつながらないし、お前、どこ歩いてるのかわかってるんだろうな?」

 「大丈夫だよ、純。この地図にちゃんと書いてあるんだからさ」 

 ようやく立ち止まった光輝は、振り返ると涼やかな目で答えた。
 これほどの山道を朝から歩いているのに、ほとんど汗をかいてるようにも見えない。
  
 (なんだよ、こいつ、帰宅部のクセに)

 中学の時から陸上を続けている純の方は、息もあがり、体中汗びっしょりだった。 

 東光輝は少し変わった少年だった。

 成績は学年TOP10にこそ入らないものの、そのすぐ後ろあたりには控えていそうであったし、万年帰宅部の割にはどこで
 鍛えているのかどんなスポーツをやらせても機敏な動きでこなしてしまう。

 人当たりもそつなく、女子にも結構人気があることを純は知っていた。

 しかし一方で男子連中からは「何を考えているかわからないやつ、変なやつ」という評価を一部からされていることも知っている。

 
 それがなぜか純は知っている。

 (こいつは、なんていうか、いつも<演じてる>んだ。クラスの中で盛り上がってる時も、一応笑って聞いてるけど、本当は
 どうでもいいっていうか、冷めてるっていうか。それでその<演じて>ることもあまり隠そうとしてない。どうでもいいって
 感じなんだよな。だから本気でゲームやら恋愛やらに夢中になってるあいつらからすると、わけがわからないって見えるし、ちょっとイラッとする。)

 そんな光輝が今度ばかりは、熱心に純を誘ったので、すこし奇妙に感じていた。

 光輝の家は代々続く、お坊さんの家系らしいが今年の夏田舎に帰った時に 蔵の中で古い地図を見つけたというのだった。
 地図には奥秩父のある山中に、ものすごいものが埋められていることが記されている。
 それを二人きりで探しに行こうというのだ。
 
 いつも年齢よりも大人っぽく見える光輝が、そんな漫画みたいなことを真剣に目を輝かせて言ってたのも変だった。

 それに光輝は純に繰り返し、言った。
 
 「いいか、誰にも、家族にも絶対に言わないで、来てね。それくらいすごいことなんだ」と。

 なんだかおかしいなと感じながらも、純は予定を空けて光輝と一緒に山へ来た。
 それは「こいつどうしちゃったんだ?」という好奇心でもあり、光輝の目の異様な輝きにあてられたせいでもあったかもしれない。

 突然、風が冷たくなった。
 見上げるとさっきまでの青空は、重く黒い雲に覆われ始めていた。
 セミの鳴き声さえ、止まり、あたりは静寂とふたりの息遣いだけになっていた。
 
 「ついた、ここだよ」

 光輝の指さす方を見て、純は思わず息をのんだ。

 「うわっ すげ・・・」

 地面がそこで終わっている。
 左右少なくとも数百メートルにわたって、山が人工的に削られでもしたかのように、まっすぐに切り立った崖が姿を姿を現していた。

 「な・・なにここ?ちょっとおかしくね。急に、こんな」

 からだの芯まで冷やすような冷気がふたりを包み込んでいた。どうやらそれは崖の下から這い上がってくるようだった。

 「これのことか、光輝が探してたすごいものって」

 「いや、これじゃない、、、そっちさ」

 見ると崖からほんの少し手前に、草木にほとんど隠れるようにして小さな木のほこらがたっていた。

 「なんだこれ、、、ちょっと気持ち悪いんだけど」

 光輝はそれには答えず、口元におだやかな笑みを浮かべたまま、巻きついたつたを引きはがし始めた。
 
 ほこらがその全貌をあらわすと、光輝は背負っていたリュックから何やら大きなものを取り出した。

 「お前、それ・・・」

 斧だった。光輝は表情を変えることなく、それを頭上にふりかざすとほこらに向かって渾身の力で振り下ろした。
 雷音のような、咆哮のような轟音が山を揺るがし、永劫とも思えるほどに空気を震わせ続けた。
 

  時はいまだ、文明開化の号令が鳴り響くはるか前、江戸の町に鬼が出るとのうわさがたったことがあった。
  そこで名うての剣士、呪術師、高僧らが集められ少数精鋭の討伐隊が結された。
  幾人かの犠牲者を出しながらも、彼らは「鬼」を追跡し、とうとうある山奥の崖のふちにまで追い詰めた。
  以下はその時、敵意あるかがり火に照らされながら「鬼」が彼らに語った言葉である。
  
  おぬしたちにわしを滅ぼすことは決してできんさ。

  わしは うぬらなのだ。
  うぬらが、「鬼」なのだ。
  あはは、わかりはすまないな。たがだが50、60の齢しかない煮えたぎる血をもつおぬしらにはな。  
  
  もし、うぬらがわしを滅ぶすのなら うぬらもまた遅かれ早かれ滅ぶこととなろう。
  そこの、坊主、おまえは法力だけは達者な思い上がりだが、卑しくも仏の道を学ぶものであれば、一切万物がわかちがたく結ばれておることは知っておろう。

 わしらは人の子を年に10人さらい、食らうやもしれぬ。
 うぬらが必死で作った水車を壊すやもしれぬ。納屋に火をつけるやもしれぬ。
 必ずそうするのではない。「そうするやもしれぬ」と言っている。
 100年、200年 わしらが何もせずに谷底でいびきをかいているのもまたよくあることよ。 

 それが我ら鬼の性なのだ。
 うぬら人の子はそうしたわしらの性を嫌っておるな。
 そのような存在はこの世から一切抹殺すれば、より一層世は住みやすくなり、この世は極楽浄土に近づくと、そう思っているな。

 だが、それはまったく愚かなことよ。

 おぬしらはそれをどこまで続ける気かな?
 鬼を殺し、害獣、害虫を殺し、害をなす人間を殺し続ければ、あとには善良なるものだけが残るのかな?

 その血濡れた手を持つ残ったものたちは、まことに善良と言えるのか。
 そのものたちは人なのか? 鬼なのか?鬼以上のばけものなのか。

 わしを滅ぼした今宵から、おぬしらも滅びの道を歩み始めると、わしは言っておく。
 この森も山河もまた同じように死に始めるじゃろう。

 ことわりを知らぬ善人づらの坊主よ、最後に教えておいてやろう。
 我ら何をするかわからん鬼の一族が、山を川を豊かにしておるのだ。
 豊かであるとは、美しいものだけではない 醜悪なものも危うき者も 美しきものも すべてが共にそこにあるということよ。

 よいか、豊穣とは「不確か」であるということよ
 明日、わしらに頭をかち割られるやもしれぬ、その者の目に映るありのままの山河ということよ。
 
 わしら鬼は山河に宿る「不確かさの精」だ
 
 お前らのじいさんのじいさんのそのまたじいさんたちはそのことを知っておった。
 だからな、刃を交えたり とっくみあいをすることはあっても、じいさんたちはわしらをこの世から滅ぼし去ろうなどとは決してしなかったのさ。

 おぬしたちは年ごとに凶悪になっていくようじゃなあ。
 わしら鬼たちは万年も千年も同じほどの悪さしかしておらんのじゃがなあ。

 そのような剣と霊符と真言ででわしを滅せられると 本当に思っておるのか

 ひとつだけおぬしらに よきことを教えておいてやろう

 今から百年 1000年たたんうちに 末世と呼ばれる時がやってくる 

 その時にはお前らの今の姿は薄汚い野猿の群れにしかみえんような 町中がみたこともない金で輝いておるような時が来る。
 それはお前らがあらゆるものを殺し続けた末に訪れる「善人の世」だ
 
 山河は崩され 埋められ
 鬼も 獣も あやかしも すべて殺された世じゃ 

 その時、人の子の中に わしを再び解き放つものがあらわれるだろう

 因果の巡りを考えるならばおそらくは おぬしら誰かの 子孫になあ。

 その時に 善人の世は終わり おぬしらの「贖い」と 「救い」が始まるだろう。

 天地のことわりとはまことに天晴なものじゃなあ。

 さあ、わしを、うぬら自身をさっぱりと滅してみよ!」

 鬼がその言葉を語り終えると 刃が舞い 呪符が飛び おおきな黒い影が 谷底へと落ちてゆくのを彼らは見た。 


 
 そして時は流れる。


 二学期が始まった。
 誰もが多少はブルーになる、学校生活の再開も、光輝にはあまり影響しない。
 いつも通り7時前には、すっと目を覚ましてからだを起こし、部屋を出て階下のキッチンへ降りていく。 
 「おはよう」と母親と短い朝の挨拶を交わす。
 テレビがいつもとは違う番組をやっている。
 数百人を乗せた旅客機が、秩父上空で消息をたっているという。 

 「何?落ちたの。」

 「そうみたいよ・・・イヤね、」

 (何百年も封印されていたんだ、多少暴れるのは仕方ないだろう)

 「そういえば、光輝、、、純君の件、昨日警察の人が来たけど、あなた本当に何も知らないの?まだ手がかりがまったくないらしいわよ」と母親が言う。

 「知らないよ、それにそんなに仲が良かったわけじゃないから・・・」 

 「そうよねえ・・ホントにどこに消えちゃったのかしら。家族仲も良かったみたいだし」

 光輝はまたテレビに目を戻してから、つぶやいた。

 「起きがけの食事くらいは、用意してあげないと悪いもんね」

 「え?何が?まだおなか減ってるの」

 「ううん、なんでもない、じゃあ行ってきます!」

 光輝が外に出ると、まだ夏の名残のように積乱雲が高くまで立ち昇っていた。

 新しい世界が始まる。不確かで、美しい世界が

 その世界の中へゆっくりと歩き始めた彼の口元には、涼やかな微笑が浮かんでいた。 





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物語 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2017/07/29 18:17

青い栞 (あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。 主題歌)


 本日見終わりました。
 全10話ほどですが、毎回一回はなぜか泣いてしまう手ごわいアニメの主題歌。

 なんだろなーひと夏の冒険を描いた映画の「スタンドバイミー」とか「少年時代」とかああいう系の感動に近いものがあるけど、それよりずっと現在と思い出とのフィードバック性が強いしな。ノスタルジーと現在のシンクロ感は「20世紀少年」?だけど、そこまでスケールのでかい話しでもないという。、世界を救うのではなく、それぞれの少年・少女時代のある種トラウマからの癒し→そして未来へ的なストーリーですね。

 これ、自分的にはかなり完成度高い作品だと思いました。  

 まあ、確実にこういうジャンルが好きってのもあると思うんですけど。夏のノスタルジー感と秩父の風景が綺麗です。

 









 
好きな歌 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2017/07/28 21:34

Radio update 7/17 【朗読しました】 殉教 星新一 著



 故星新一氏の短編「殉教」を朗読しました。

 ある市井の発明家が、生死の概念を覆す発明をしてしまったことから、世界規模でとんでもないことが始まってしまうというお話し。

 お盆に向いているお話しです(笑)のでよかったらどうぞ。

 昭和40年代に書かれてるので、ちょっとセリフや言葉づかいなどにレトロ感があり、味になっています。

 19ページほどの短い話しですが、結構時間がかかり、前後編にわけてアップしました。 












Haitaka Radio | コメント(0) | トラックバック(0) | 2017/07/17 16:47

ONE OK ROCK - Be the light





好きな歌 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2017/07/15 20:35

Mana of sea キリロラ☆


  海の精の謎めいたささやきに耳を傾けていると・・・・

  イルカやクジラが歌う海洋の神秘にどんどん深く引き込まれて、海と一体になっていくような・・・

  そんなトリップ感を体験できました。 海に行きたいけど、忙しくて行けない人ににぴったり!?

  ただし、ビーチで眺めるのではなく、かなり深くもぐる感じですね^^

  


好きな歌 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2017/07/14 19:12

クジラの歌




  



 ↓何年か前、個人セッションでお世話になったキリロラさんのクジラの歌。↓

 


好きな歌 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2017/07/12 22:57

Radio update 7/8 自分にとってのマーヤ 岩城先生お話会より



 先週I先生の吉祥寺お話会に参加して、考えたことなどについて話してます。

 マーヤって何かという説明は一切してないので、いきなり聴くとなんだかよくわからない話しになってるかもしれません。

 マーヤとはつまり!・・・・なんだろね?(笑) うーん非実在かな?とらわれ、とも言えるし、もやもやする感じでもあるし、思い込みでもあるし、多分そんなもんの集合体です。
  
 


 INDEX

 ■自分にとってのマーヤを見極めること
 ■何がマーヤになるかは人による
 ■例:宇宙人 ババジ
 ■全部マーヤはありか?
 ■般若心経の効果
 ■化け物ウサギの話しがすごく気になる件 





 
Haitaka Radio | コメント(4) | トラックバック(0) | 2017/07/10 17:55
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