インドぐるぐる旅日記 2006②

               
           其の2 アグラーへ
                           

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  2006年 3月6日 

 午前6時にデリーを出発したシャブダイエクスプレスは、朝もやに包まれた平原の中を走っていた。
 駅を発つ頃にはまだ薄暗かった空も徐々に白み始めている。
 その朝は5時に起き、フロントで雑魚寝しているホテルの人を起こし寝ぼけ眼でチェックアウトの手続きをしてもらった。
 平原全体は乳白色のもやで覆われていて、遠く地平線に近い木立はまるで霧の海の中に浮かんでいるように見える。その霧の海を、円く、赤く輝く昇ってきたばかりの太陽が照らし始めた。上空を鳥たちが編隊を組んで飛んでいく。
 すべてが完璧に美しく見えた。
 僕はモーニングサービスで出された、熱いコーヒーを飲みながら、じわっとする幸福感に包まれた。
 いやー贅沢だよね、これ。
 僕は一月ほど前に派遣のテレオペの仕事を辞めたばかりだったが、ややこしい案件や、クレームを受けたりして頭を下げていたのもこれを体験するためだったら報われるよな~うんうん、と思ったりした。


 僕はすばらしい一日の始まりを予感した。 ・・・列車が、駅に着くまでは・・。


                            
 アグラー駅に到着したのは、午前8時前だった。
 アグラーは、おそらくインドと言えば誰でもが思い浮かべるであろう、タージ・マハルのある街である。
デリーから近いということもあり、ここに立ち寄る人は多いだろう。
 雰囲気的には、デリーのような騒々しさはなく、場所によっては田舎町的な風情もある。
 僕はアーグラーでは、駅からリクシャーを拾うのではなく、とにかくタージ・マハル近辺まで歩いてやろうと思っていた。
早くも、リクシャーワーラーには出来る限り関わりたくなくなっていた。
 しかし、列車が駅に到着するやいなや、戦いの火ぶたは切っておとされた。 
 プラットホームに降りるとすぐさま、タクシーかリクシャーの客引きが続けさまに声をかけてくる。
 インドでは、切符がなくてもプラットホームまで普通に入っていくことが出来るのだ。
 ホテルは予約しているのか?とか安いプリペイドタクシーがあるとか、まくしたてる男に一切返事をせずに歩いていく。
しかし、男はしつこい。ずっと僕の隣に並んでついてい来る。しかも口調がどんどん、きつくなっていくようで気味が悪い。 
  
 ひたすら、NO,NO,NO!といい続け、駅前を通り抜ける。

 あれ?しかし、ここはどこだ?
 どっちに向かって歩けば、いいのだろうか。

 そのとき又、リクシャーワーラーが声をかけてきた。
 どうやら、言われたとおりのところに行く、どこにも連れて行かないと言ってるようだ。
 その言葉をそのまま信じた訳でもないが、僕は、本当に言われた通りのところに行くんだなと念を押し、彼のリクシャーに乗り込んだ。
 タージ・マハルに行くのは後にして、先にホテルにチェックインすることにした。
 僕がデリーで予約したホテルのパンフを見せて、ここに言ってくれというと、このホテルは高いよ、
それにタージ・マハルからも遠い。もっと安くていい場所のホテルを私は知っている、と言い出した。
 
 てっめ~この野郎、話しが違うじゃねえか (゚Д゚)ノ

 僕は、「いや、もうここに予約を入れてるし、料金も既に払っているのだ」というが
 僕の英語がわかりにくいのか、わかってるのにわからないふりをしているのか、男は、「ここは高い!タージからも遠い」をくり返す。
 こりゃ理屈を説明しても労力を費やすばかりだ。
 僕も、とにかくこのホテルへ行きたいんだをくり返す。
 押し問答のような対話の末、彼はようやく了承したらしく、ホテルへ向かって車を走らせた。
 しかし、ホテルの入り口に到着すると、男は
 
 「さあ、俺はここで待ってるから、部屋に荷物を置いて来い。」

 と言った。

 え?(?_?)

 一瞬、意味がわからないが、どうやら、僕を乗せて市内を観光するつもりのようである。
b いつのまにそういう話しになったのかはよくわからないだが。

 またしてもインドマジック、ラリホー!

 はいたかAはねむってしまった! (-_-)゜zzz…はいたかBはねむってしまった!(-_-)゜zzz…はいたかCはねむってしまった!(-_-)゜zzz…

 僕はふたたび、自分の意思が麻痺するのを感じた。


 こうしつこくされると、もう、どうでもいいや好きにして~ほえほえ~という気分になるのだ。
 NOと言い続けるのは、結構な精神力を必要とする。

 チェックインして部屋に通されてみると、デリーの旅行代理店のオヤジが言っていた通り、そこはなかなかいいホテルだった。
 部屋の中にはエアコンもテレビもあり、バスルームには浴槽がついていた。
 インドでは中級以上(多分一泊1000ルピー程)のホテルでないと、浴槽はついていない。
 荷物をおろして、さあ出て行こうかとしていると、ドアが激しくノックされホテルの従業員が入ってきた。
こわおもてのインド人だった。
 彼は、ソファに座り、僕にもその前に座るように言った。
 
 「オートリクシャーがホテルの前で待っているけど、あいつは帰した方がいい。
アーグラーのリクシャーワーラーはみんな君を騙すだろう。観光するならリクシャーは使わない方がいい。
私が帰してやるから、ここまでの料金を渡しなさい
」というようなことを言った。

 「観光するなら、車を手配してあげよう。そうすれば、1000ルピー程で全ての観光地を回れるよ。」

また1000ルピー・・・。(-_-;)

 さすがに僕は、行く先々でインド人の言う事を全て聞いていたら、日本に帰る金もなくなってしまうということに気付き
危機感を持ち始めていた。大体僕が持参した旅の予算でインドを回るとすれば、一日の出費は800~900ルピー以内で
やりくりしなければいけないのだ。
 なのに僕はデリーでたった一日の内に、一万ルピー近く使ってしまった。
 非常時に備えて、トラベラーズチェックを多めに持ってきているが、ここらへんでちょっと気を引き締めないとヤバい
というのがわかってきた。
 僕はとりあえず、今は疲れて眠りたいから・・・と車の話しはうやむやにし、リクシャーの料金だけを渡した。
 みんなが自分から金を吸い取ろうとしているような気がした。
 一体、誰を信じて、誰を疑えばいいものやら。
 少し経って、部屋の電話が鳴ったが、僕は出なかった。
 少し時間を置いて、また鳴る。放置する。
 入浴中にもまたドアが激しくノックされた気がするが、知ったこっちゃない。
 こっちは客だ

 やつらにはもう関わりたくない。
 
 少し眠って目を覚ました後、僕は考えた。
 はっきり言って、外には出たくない。
 だが、せっかく飛行機に10時間も乗って辿りついた国。ホテルの部屋にこもっているのも、馬鹿みたいだ。

 決めた!オートリクシャーには今日は絶対乗らんぞ!

 必ず、歩いてタージマハルまで行ってやる。
 さっきのオヤジはタージマハルまで10キロ以上あると言っていたがホントかどうかわかったもんじゃない。
地図上ではせいぜい、二三キロのはずなんだから。
 ホテルの人間にどこに行くかと尋ねられたら、ただ散歩するだけだと言おう。
 そうすれば、余計なおせっかいはできないはずだ。

 意を決して部屋を出て、外に出ようとすると、さっきのこわおもてのオヤジはいなかったが、フロントの女性に呼び止められた。
 「Excuse me sir・・・ Where are you going?」

 「Just walking around」と僕は答える。

 すると、彼女は「もしタージマハルまで歩いて行くんだったら、4時間くらいかかりますよ」と言った。

 よ・四時間??
 なにそれ??往復8時間だとあなたは言うのですか(-_-;)
 嘘でもホントでもその発言にちょっとびびったが、態度には出さずに、

 「OK、サンキュー」とだけ言ってホテルを出た。

 
                 
 絶対にリクシャーには乗らないと、こちらが決めていても、向こうは必ず声をかけてくる。
 なんだか、この街ではデリー以上に日本人である自分が目立っているように感じられた。
 しかし、もうデリーにいたときの俺ではない。
 いくら安くても、リクシャーには乗らない。
 なぜか?

 歩きたいからだ!「I want to walk!」あんたたちに用はない!

 交渉の余地の無い言葉の防護壁を見つけた僕は、しつこくされるたびに

 I want to walk!
 
 と言って、彼らをはねつけた。
 しかし、そういってみると、あるリクシャワーラーは「それじゃしょうがない」と言うように笑って
 
 「タージマハルならそこの角を曲がるんだよ。」と教えてくれた。
 
 彼は去り際、どこから来たのかと言う質問に、日本だと答えると 

 「私の友達が、アイチのトヨタで働いてるんだ。」

 と言って手を振った。僕も手を振り返した。 
 彼と話してふっと肩の力が抜けるのを感じた。
 そして、ここにも普通の人間同士の触れ合いがあることを思い出す。 
 
 からかうように口笛を吹かれたり、バイクで通りすがりに手を振ってきたり、「ナマステー」と声をかけられる。
物珍しそうな目、親しげな目、異質な外人を見る目、いくらか反感がこもった目・・・いや、それは僕がそう思いこんでいるだけなのだろうか。
 物売りなら無視する事も出来るけど、好奇心で声をかけてくれる人にはこちらも挨拶を返さないといけないように思う。
そのそれぞれに対応するのが疲れる。もちろん、全部にリアクションをとり切れず、たまにははからずもシカトしてしまう。
 ようやくタージマハルの近くに来た。
 ホテルを出てから40分くらいしか経っていない。
 4時間かかるってどういう計算だよ、おい。

 小高い丘陵状の公園があり、そこへの道を登っていくと、10才前後の子供達数人が
しょぼいタージマハルのキーホルダーを売りつけようとしてきた。
 一人が僕に、「50ルピー、50ルピー」と売りつけようとしているのをもう一人の少年が
 「買わない方がいい、no good! no good!」
 と僕の腕を取って言う。
 商品をけなされた方は、からかう奴を殴るような真似をする。
 その掛け合い漫才のようなやりとりが微笑ましく、
 「いくら?50?No、No」
 と笑いながらあしらっていると、じゃあ二個で50だというので、買ってあげることにした。
 金を払うと、やったぜーと言う感じで駆けていく。
 No good Nogoodと言ってた方も売れたことを喜んで一緒に走っていく。
 ボロいもうけなんだろうか。
 生き生きとした彼らの表情や動きが、印象に残る。 


 公園のなかは静かで、木々の間をリスが走り抜け、日本では見られないようなカラフルな小鳥をあちこちにみかけた。リスはデリーの街中の街路樹にも普通に生息しており、最初は、おおーかわいいなーと思ったが、
見慣れてくるとネズミの一種みたいに見えてくる から不思議である。
 しばらくそこで、緑を堪能してから、ホテルに帰った。

 なんかめんどくさくなってきて、至近距離までは来たがタージマハルに入るのはやめといた(爆)

275px-Taj_Mahal,_Agra,_India_edit3

(⁰︻⁰) ☝ここ、行ってませんw


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  タージの近くで客待ちのラクダさん





 ホテルに帰って、トランクスとTシャツというリラックスモードで一息ついていると、ドアが激しくノックされ、
こっちが返事するのを待たずがちゃっ!とドアが開きさっきのこわおもてのインド人が入ってきた。

 「どうしてドアがロックされてないんだ?」とぶすっとした顔のまま詰問する口調で言う。

 「あぁ・・I forget・・・」

 「危険だから、ドアは毎回ロックしなければいけない。」

 「OK、わかりました。(もー勝手に入ってくんなよな~)あ、そうだ、ルームサービスを利用したいんですが。」

 「OK,ボールペンと紙を持っているか?」

 ボールペン?あーショルダーバッグの中に入ってたかなー・・・。
 バッグを開けてみると、あったはずの場所になかった。あれ?おかしいなぁ。ここに入れておいたはずなんだけど。
そうやってごそごそしていると、彼が僕のバッグをとりあげて逆さにすると、ぶんぶん振ってその中身をベッドにぶちまけ始めた。

 あ~れ~・・・ちょ、ちょっと・・・いやーん゚(゚´Д`゚)゚

ガイドブッグや、航空券や、パスポートなど大切なものがベッドの上に転がり出る。
それと一緒に奥のほうに入っていたボールペンも出てきた。

 「ほら、あったぞ」・・・・って。

 あのね~、出てくりゃいいってもんじゃないぞ。

 僕はメニューを手にとって、野菜カレーとラッシーを注文したいのだが・・・と言った。
 すると、彼はベッドをぽん、とたたいて、Sit!と言った。
 僕がベッドの上にお座りさせられると、ボールペンを渡してやぶいたメモ帳に注文を書けと言った。
 僕は正座したまま、紙に野菜カレーとラッシーと書いた。
 それを渡すと、彼は電話の方に移動し、受話器を持ったあとまた近くのベッドのシーツを叩いてここに座れと言う。
 どうやら常に僕を近くに、はべらせておきたいらしい。
 そして電話をフロントかどこかに掛けて、注文を伝え、出ていった。。
 ベッドの上に正座で取り残された僕は、困惑する。
 あのーそれだけだったら、最初から電話してくれや(^^;わん
 あーわからんインド人は、謎や。

           
 
 夜になると、また不安とさびしさの波が押し寄せてきた。
 まだ、インド三日目なのだが日本を出たのが遠い昔のように思えて仕方ない。
 それどころか、あのデリーのメインバザールのホテルをチェックアウトしたのが今日だと言うのが信じられない。 毎日環境が変るとこれ程までに時間の流れが変るものなのだろうか。
 いつも当たり前のように使っているものがない。
 携帯もない、インターネットもない。
 日本にいれば相方とは毎日メールしているが、もちろんそれも出来ない。
 さびしさに耐えかねて、テレビをつけた。
 ヒンズー語の放送が多いが、英語のものもある。まあどちらにしろ、わからない。
 わからないが、人の声を聞いているとやはり寂しさはやわらぐ。 
 日本とくらべて、バラエティー的な番組は少なく比較的真面目な感じだ。動物とか自然現象の番組を放送していた。
 同じCMが何度も流れた。
 PC関係のものだと思うが、アニメーションで蟻の行列が歩いている。
 アリたちはすれ違うたびに、触覚を触れ合わせて「Hello」と言っている。
 無数のアリ達が、あちこちで、すれ違うたびに挨拶を交わしている。

 Hello!・・・・・ Hello・・・ Hello・・・・・ Hello!・・・・・・・ 

 どことなくインドの旅を思わせる映像だ。

 そうこうしていると
 お腹の調子がおかしくなってきた。
 どうもさっきのカレーを食べてから兆候はあったんだが・・・。
 きりきりと腹部全体が痛む。
 トイレに何回か駆け込むが、すっきりしない。
 とりあえず日本から持ってきたビオフェルミンを飲んでおく。

 翌朝、僕は午前5時に起きた。
 眠い。
 朝早いというのもあるが、夜中にまた腹痛が起こり、二三回トイレに走ったのだ。
 早くもアーグラーは今日でさよならして、カジュラホに向かう予定である。
 まあ、アーグラーにもこのホテルにも未練はない。
 カジュラホには鉄道の駅は駅は無いので、まずジャンスィーという街まで列車に乗り、そこからバスに乗ると言うことになる。
 非常に腹の調子が心配だったが、仕方ない。

 フロントでチェックアウトするときに、両替をした。
 オートリクシャーに乗るときは、10ルピーを大量に用意しておいたほうがいい。
 大きい札を出しても釣りを持っていないことが結構あるからだ。
 その時も100ルピー札を10ルピーに両替したのだが、フロントの男は10ルピーを7枚ほど渡しただけで、OK?という。
 僕はNo,Noと首を横に振りながら残りよこせとジェスチャーで伝える。
 彼はにやっとして、残りを渡す。
あのな~・・・・(-_-;)

 日本でセブンイレブンの店員が客にこんなことやってたら、ぶん殴られるぞ。

 しかし・・・
 どこかでなんか、もうこういうやりとりにも少し慣れてきたのを感じる。


 アーグラー・カント駅までは、十代の少年が運転するオートリクシャーで行った。
 駅までいくらか?と聞くと70ルピーと言うので、それは高いだろ、もう少し負けろと又やっていると、
 どこからやってきたのかリクシャワーラーのじいさんがいきなりやってきて隣に付け、いや、70だ。70!と息巻いた。
 
 えっあんた誰??この子とどういう関係? (;´Д`)

 「40だ!40じゃなきゃ、降りるよ」
 とリュックを持って車から降りる振りをすると、やっと少年は「OK、OK」と了承した。
 
 彼は約束通り、40で駅まで行ってくれた。
 初めてこっちの要求が通ったので、僕は少し自信が出てきた。
 僕に、大いなる源より天啓がひらめいた
 
  ぴか~~ん(☆∀☆)

 そうか!降りるふりをすればいいんだ。 (;・∀・)





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インドへなちょこ旅行 | コメント(2) | トラックバック(0) | 2012/06/11 13:30
コメント
僕もデリーからアグラーへ行きました
インドに着いて3日一睡もできずまた何も喉を通らないという状態でますます非現実感が強まっていました
リキシャワーラーとの戦い?はその後もずっと続きましたね(笑
 白蓮様

 ありがとうございます♪三日不眠・絶食はすごいですね!逆にハイになってきそうな・・・。リクシャワーラーとの戦いは、インドを旅するには避けて通れないイバラの道なのでしょうか(~_~;)でもある意味彼らに鍛えられた気がします

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