命の斥候




命の斥候




 霧に包まれた小高き丘
 私は私の鷹とともに立つ
 何一つ音とて聞こえぬ
 この名もなき荒野の丘に
 
 霧が晴れても希望は見えぬ
 その彼方に少しづつあらわになるのは
 黒き水に浸され沈んだ都市

 あの都市が
 私が生まれた懐かしきふるさとだったのか
 あるいは足を痛めながら厳しい寒さの幾夜を
 かの地を目指し歩き続けた
 約束の土地であったのか
 それすらもうおぼつかぬ 

 私にわかるのは
 街はもう死に絶えているということだけだ

 その沈んだ廃墟を見下ろす霧の丘に
 私はただ立っている
 何度も何度も鷹を街へと飛ばしたが
 命ある知らせは戻らなかった

 そして丘での果て無き夜営は
 幾夜も続く
 その焚き火の炎のみが
 友の鋭い瞳に映りこんだ

 力なく鳴くお前よ 友よ
 お前ももう深き傷を負っているようだ
 もうあの街へは飛ばなくてもよい 

 私のただひとりの道連れであり、希望よ
 しかしもうひとたびだけ 行ってくれるか
 夜明けとともにお前をもう一度 空へと放つ

 鷹よ 遠く高く舞い上がり
 死に絶えた廃墟の塔をも越えて
 いざ
 命の泡立つ海を目指せ
 
 幾重にも続く石の回廊をくぐりぬけて
 こんじきの夜明けより
 かぐわしい花の一輪をくわえて戻れ
 
 私のたどりし旅の道を眼下に俯瞰し
 路傍に私が落とし忘れた
 喜びと苦しみの涙をも拾い上げて
 時をひるがえれ

 友よ
 お前のいない夜を
 私はこの名もなき丘で明かそう
 さあ 早く戻って来い
 鷹よ 生命の斥候よ
 私の生きる証を携えて
 はじけるような羽音と太陽と共に
 この腕に戻れ

                       

                            May 2013
 words by Haitaka

 
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詩集2(火水の子供たち) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2013/11/20 04:07
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