光る花、透明な樹と魚たち

 その一部始終をどうするすべも持たず
 僕は見つめていた

 草むらを這う
 小さな芋虫は
 天に向かって祈るように
 からだを伸ばしたあと
 餌を求めていた蟻に食いつかれ
 もがきながら引きずられていった
 僕の庭は恐ろしい戦場なのだ 

 冬が訪れて枯れ果てる
 たくさんの草木たち
 そのすぐ傍らでは
 冬でも青々とした葉を
 しげらせる大樹が
 陽を浴び葉むらを虹色に
 光らせている

 滅びの季節にあっても
 変わらず生命を輝かせる
 命がある

 さらにその背後には
 誰もが名前を忘れてしまった
 透明な巨木が
 天をついてそびえている
 木は決して枯れることなく
 すべてを見つめている

 難病の少女が初夏の午後に
 ふとカーテンを開けたとき
 灰色の摩天楼と
 湾岸ブリッジの彼方に
 その巨木はそびえていた

 故郷に帰れなかった兵士たちが 
 塹壕の中で息絶えるとき
 彼らのかんばせに涼しい影を落としたのは
 透明な巨木の梢だった

 そして木を垣間見たものたちが
 すべて過ぎ去っても
 巨木はすべての背後にそびえ
 葉むらを輝かせている・・・

 多くの命たちの
 喰い合いという共生の中で
 肥えた土壌からは
 小さな芽が出て
 茎が伸び 葉が広がる
 その先端には
 白い花が開いていた

 白い花
 そこはくいあう命たちの
 悲鳴と痛みが響きあう
 土壌の終結点だった

 花は聖なる響きとともに
 かすかにやわらかく
 光っていた
 花の先にはもうなにもない
 虚空を蜜蜂たちが
 うなりながら舞っている

 大地という命の戦場の
 果てには
 至福が虚空の中で
 光を放っていた

 透明な樹はすべての花々をいだき
 それらを静かに見つめていた

 透明な樹の沈黙と
 光る花の響きゆえに

 僕は命を祝福しよう

                               

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詩集2(火水の子供たち) | コメント(0) | トラックバック(0) | 2014/02/04 10:57
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